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大阪家庭裁判所 昭和45年(少)9208号 決定

少年 T・T(昭二九・一〇・一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。(B1相当)

理由

(非行事実)

少年は、

第一  昭和四五年一一月四日虞犯、窃盗、恐喝保護事件で保護観察に付されたにも拘らず、仕事もせず、異性交遊、夜遊びを続け同月二一日父親から注意されるや、立腹して「金をくれ、くれたら帰らないから」「殺すぞ」等の暴言をはいて、暴力を振い父親から三万円を貰つて家出し、その後は○○地区のドヤに泊つて徒遊していたので、同年一二月一日保護観察所で、家庭調整と少年の住居職業の安定のため、更生保護会泉州寮に預けられたが、即日無断退出し、その後所在不明になつていたもので少年の性格環境からこのまま放置すれば罪を犯す虞れがある

第二  ○田○夫、○市○夫、○井○孝と共謀のうえ、

(1)  昭和四五年一一月二七日午後四時四五分ごろ、大阪市○○区○○町○○○○番地○○球場三塁側東側通路並びに外野席内において、○林○孝一六歳を取り囲み、同人の左ほほに煙草の火を押しつける等の暴行脅迫を加えて、金品を要求し、右要求に応じなければ更に危害を加えるような態度を示して、同人をその旨畏怖せしめ、即日同所で同人から男物腕時計一個(時価一万四、〇〇〇円相当)及び黒皮財布一個の交付を受けてこれを喝取し

(2)  同月二七日午後五時二〇分ごろ、同区○町○丁目○○○番地○町公園内において、○本○敏(一六歳)を取り囲み「金を貸してくれ」と申し向けこれに応じなければ暴行を加えかねない威勢を示してすごみ、その旨同人を畏怖せしめ、即日同所で同人から現金五七〇円男物腕時計一個(時価五、〇〇〇円相当)学生手帳一通の交付を受けてこれを喝取し

第三  ○田○夫と共謀のうえ、同月二八日午後二時三八分ごろ、同市南区○○○○×丁目○○番地そごう百貨店において、○中○一(一六歳)に対し、すれ違いざま「人に突き当つた」と因縁をつけ同所七階男子大便所内に同人を連れ込み、「金を出せ」とすごんで、右要求に応じなければ危害を加えるような態度を示してその旨同人を畏怖させ、即時同所で同人から男物腕時計一個(時価一万六、〇〇〇円相当)及び現金二一五円の交付を受けてこれを喝取し

第四  ○市○夫と共謀のうえ、

(1)  同月二九日午後〇時三〇分ごろ、同市住吉区○○○○町○丁目○○番地○○川堤防下付近路上において、○名○博(一五歳)、○部○一(一五歳)、○下○和(一六歳)に対し、ナイフを持つているように装つて「金を何んぼ持つているか出せ」と申し向けながら、これに応じなければ危害を加えかねない態度を示して脅迫し、その旨同人らを畏怖せしめ、即時同所で、○名から男物腕時計一個(時価九、〇〇〇円相当)現金四〇〇円、○部から男物腕時計一個(時価九、〇〇〇円相当)現金五〇〇円、○下から現金四〇〇円の交付を受けてこれを喝取し

(2)  同年一二月八日午後一時〇分ごろ、同市阿倍野区○○町○丁目○番地の○先路上において、○谷○太郎(一八歳)に対し、「人の顔を見てええんか」と因縁をつけ「金を出せ」と申し向けた上同人の腹部等を五、六回殴打する暴行を加えて、右要求に応じなければ更に危害を加えるような態度を示してその旨同人を畏怖せしめ、即時同所で現金五八〇円の交付を受けてこれを喝取し

(3)  同日午後二時一〇分ごろ、同所において、○中○之(一六歳)に対し「金を貸せ」「時計を貸せ」等申し向け、顔面、腹部などを殴打する暴行を加え、右要求に応じなければ更に危害を加えるような態度を示してその旨同人を畏怖せしめて即時同所で同人から男物腕時計一個(時価一万三、五〇〇円相当)の交付を受けてこれを喝取し

第五  ○田○夫、○金○、○市○夫、○城○もると共謀のうえ、

(1)  同年一一月三〇日午後二時〇分ごろ、同市○区○○○○×番丁○番地○○デパート七階階段附近に於いて、○野○佐夫(一七歳)、○内○美(一八歳)、○中○雄(一七歳)に対し、「お前ら金持つているか」「ええ時計持つてるな」と言うなり下腹部を殴りつける暴行を加え「時計と金を出せ」と申し向けて即時同所で右要求に応じなければ更に危害を加えるような態度を示して、その旨同人等を畏怖せしめ○野から腕時計一個(時価一万円相当)、現金一〇〇円、○中から腕時計一個(時価一万二、五〇〇円相当)、現金五〇円、○内から腕時計一個(時価一万三、〇〇〇円相当)、現金二〇〇円の交付を受けてこれを喝取し

(2)  同日午後四時〇分ごろ、同市天王寺区○○○町○○番地なにわ会館前路上において、○木○二(一七歳)に対し、同人を取り囲んで「金を持つているか」と申し向けて、これに応じなければ危害を加えるような態度を示して同人を畏怖せしめ、即時同所で同人から腕時計一個(時価四、〇〇〇円位)現金一、〇〇〇円、学生証一通の交付を受けてこれを喝取し

第六  ○田○夫、○金○、○西○男と共謀のうえ同年一二月二日午後三時五〇分ごろ、同市浪速区○○町○○○○番地○○球場三塁側外野席において、○瀬○(一五歳)に対し、同人を取り囲んで「金を出せ」と申し向けながら、右要求に応じなければ危害を加えかねない態度を示してすごみ同人を畏怖せしめ即時同所で同人から現金三、六〇〇円の交付を受けてこれを喝取し

たものであつて、右第一の所為は少年法三条一項三号イ、ロに該当し、第二ないし第六の各所為は刑法二四九条一項、六〇条に該当する。

(処遇の理由)

一  少年は、暖い家庭に恵まれず、(小学二年時に実父母が離婚し、その後まもなく継母(D子)が入家したが、同女は強度のヒステリーで、少年をしばしば虐待し、家庭をかえりみないので、中学二年時に実父は右継母とも離婚した。その後は実父と少年と六歳年下の少年の弟の男だけの世帯が一年余り続き昭和四五年五月実父は再び現在の継母(S子)と再婚した。)父親は厳格に過ぎて、少年を叱りつけるのみで、思いやりがなく、少年を理解した上での合理的な指導をしない。そのため少年は家庭に対する愛着を失つていたが中学三年の二学期(昭和四四年九月)ごろ、盗癖のある○市○夫と親しくなつたのを契機として、外泊、ボンド吸飲、喫煙等の不良行為が頻発するようになり、中学卒業後商事会社に就職したが勤務意欲なく、一月足らずで退職し、その後喫茶店等で一時的に働いたことはあつたが、ほとんど無為徒遊の生活を送り、家にもあまり寄りつかず窃盗恐喝等の非行を犯し、昭和四五年一一月四日保護観察に付された。

しかるに少年は、右決定後も非行事実第一に記載したとおりの生活態度を続け、右決定後一月もたたないうちに第二以下記載の非行を累行したものである。

二  少年は知的能力に優れ(IQ一二〇)、素質としては恵まれた方で非行の原因は、家庭の問題に起因するところが大である。しかし、前回の保護観察決定の時の非行は共犯者に専ら追従的であつたが、本件非行においては少年はかなり積極的に関与しており、非行傾向が急激に進みつつあることが窺える。一方家庭の問題はいまだ改善されておらず、実父は少年の非行が進むにつれて少年を頑迷に拒絶するようになつて、保護意欲を失つている。

三  以上の諸点を勘案すると、この際少年を施設に収容して、客観的に自己を眺めて内省する機会を与えるとともに、自己の家庭の問題特に父親との関係も逃避することなく、前向で解決する姿勢を作り併せて健全な生活目標を持たせ、勤労意欲を涵養する必要が認められる。又施設収容の期間は、非行性の程度等諸汎の事情から六月を相当と認められるので、そのように処遇されるように勧告する。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条を適用して主文のとおり決定する。(処遇に関する勧告につき少年審判規則三八条二項)

(裁判官 赤塚健)

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